台風が接近する予報が出た夜、利用者を無事に帰宅させるべきか、事業所に留め置くべきか、とっさに判断できず不安になった経験はありませんか。停電や断水、地震による建物被害など、災害はいつ起きるか分かりません。
障害福祉サービス事業所には、2024年度の報酬改定で「業務継続計画(BCP)」の策定と研修・訓練の実施が原則義務化されました。この記事では、BCPが求められる背景と、現場スタッフが今日から取り組める具体的な備えについて解説します。
障害福祉サービス事業所にBCP策定が求められる背景
BCP(Business Continuity Plan)とは、災害や感染症の流行などの緊急事態が発生した際にも、利用者へのサービス提供を止めない、あるいは早期に再開するための行動計画です。近年の大規模災害を受け、厚生労働省は障害福祉サービス事業所にもBCPの整備を求めるようになりました。
具体的には、緊急連絡網や代替の支援拠点、必要な備蓄品のリスト、優先して継続すべき業務の順位づけなどを盛り込みます。誰が読んでも同じ行動が取れるよう、抽象的な方針だけでなく具体的な手順まで落とし込んでおくことがポイントです。
2024年度報酬改定で導入されたBCP未策定減算
2024年度の報酬改定では、感染症や災害発生時における業務継続計画の未策定に対する減算規定が新設されました。詳しい加算・減算の全体像については、障害福祉サービスの報酬改定と加算|現場が知るべき基礎でも解説しています。
BCPは経過措置期間を経て、多くの障害福祉サービスで策定が義務化されています。策定していないこと自体が報酬上の不利益につながるため、現場レベルでも計画の存在を正しく理解しておく必要があります。
利用者の特性を踏まえた災害時対応が欠かせない理由
障害のある利用者は、環境の急激な変化に強い不安を感じたり、避難所での集団生活に適応しづらかったりすることがあります。また、医療的ケアや常用薬が必要な利用者にとっては、支援の中断が命に関わる場合もあります。
一般的な防災マニュアルをそのまま当てはめるのではなく、利用者一人ひとりの特性や必要な支援内容を踏まえた個別性の高い計画が求められます。この点が、一般企業のBCPと福祉現場のBCPが大きく異なる部分です。
例えば、見通しが立たない状況に強い不安を感じやすい自閉スペクトラム症の利用者には、避難先の写真や手順を事前に見せておくといった配慮が有効です。車椅子を利用する方であれば、垂直避難が難しい建物構造がないかを日頃から確認しておく必要があります。
現場での実践的な対応方法
BCPは策定して終わりではなく、実際に機能する形で現場に落とし込む必要があります。ここでは、スタッフ個人として今日からできることと、チームとして取り組むべきことに分けて紹介します。
厚生労働省が公表しているBCPのひな形は、あくまで基本の枠組みです。実際に機能させるには、各事業所の建物構造や利用者層、職員体制に合わせて内容を具体化していく作業が欠かせません。
今日から実践できること
まずは自分の事業所のBCPが実際にどこに保管されており、どのような内容になっているかを確認することから始めましょう。緊急連絡網や避難場所、利用者ごとの配慮事項が記載されているかをチェックすることが第一歩です。
あわせて、自分自身の携帯電話に事業所責任者や協力医療機関の連絡先が正しく登録されているかも確認しておきましょう。停電や通信障害が起きた場合を想定し、紙に印刷した連絡網も手元に持っておくと安心です。
📋 実践のポイント(グループホームの場合)
夜勤帯に地震が発生した場合を想定し、「まず利用者の安全確認と声かけ→次に建物・設備の被害確認→事業所責任者への連絡」の順で動けるよう、手順を紙に印刷して各居室の見取り図とともに掲示しておきましょう。利用者への声かけ例としては「大きな揺れがありました。〇〇さんは怪我していませんか。落ち着いて、今から一緒に安全な場所に移動しますね」など、短く具体的な言葉を事前に用意しておくと安心です。
チームで連携してできること
個人の備えに加えて、事業所全体で年に1回以上の避難訓練や情報伝達訓練を実施することが重要です。訓練は実施して終わりにせず、気づいた課題を記録し、BCPの内容を継続的に見直す仕組みを作りましょう。
訓練で見つかった問題点の記録方法は、ヒヤリハット報告の書き方|事故予防に活かす現場の工夫で紹介している考え方が応用できます。小さな気づきを共有し合う文化が、実際の災害時の対応力を高めます。
📋 実践のポイント(生活介護・就労支援の場合)
通所系サービスでは、悪天候時に「送迎を中止するか」「利用者をいつまで事業所に留めるか」の判断基準をあらかじめ数値化しておくことが有効です。例えば「特別警報発表時は送迎を中止し、既に来所している利用者は保護者・家族への引き渡しまで職員2名以上で見守る」といった具体的なルールをチーム内で共有しておきましょう。
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注意点・リスク管理上の留意点
医療的ケアが必要な利用者や常用薬がある利用者については、災害時に必要な薬剤・医療材料を最低限持ち出せる体制を整えておくことが欠かせません。薬の管理方法や災害時の持ち出しルールについては、対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。
また、災害直後の初期対応は事故発生時の初期対応と共通する部分が多くあります。落ち着いた初動が二次被害を防ぐという点では、事故発生時の初期対応|福祉現場での報告と再発防止で紹介している基本姿勢も参考になります。
停電時には電動ベッドや医療機器が使用できなくなる場合もあるため、代替の電源確保やバッテリー式機器の準備状況も定期的に点検しておきましょう。特に呼吸器等を使用する利用者がいる場合は、優先して電源を確保する体制をあらかじめ決めておくことが重要です。
BCPを策定していても、担当者が異動・退職すると内容が形骸化しやすいという課題もあります。年に一度は全職員でBCPの内容を読み合わせる機会を設け、誰が見ても分かる状態を維持することが大切です。
なお、義務化されているBCPには自然災害を想定したものと、新型コロナウイルス等の感染症流行を想定したものの2種類があります。両者は初動対応も必要な備品も異なるため、混同せず別々の計画として整備しておくことが望ましいでしょう。
まとめ
災害時BCPは、報酬上の要件だからではなく、利用者の命と生活を守るための実務そのものです。まずは自事業所のBCPの保管場所と内容を確認し、次の会議でチームに共有することから始めてみましょう。
完璧な計画を最初から作ろうとする必要はありません。訓練を重ねるたびに気づいた課題を一つずつ計画に反映していく、その積み重ねが実際の災害時に利用者と職員の双方を守る力になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。

