夕食後のグループホームのリビング。些細な言葉のすれ違いをきっかけに、利用者のAさんが急に声を荒げ、「みんな私を嫌っている」と泣きながら物に当たり始めた。数分前まで穏やかに談笑していただけに、新人スタッフは何が引き金になったのか分からず、どう声をかけていいか分からなくなってしまう。
パーソナリティー障害のある利用者への支援では、感情や言動が短時間で大きく揺れ動く場面に直面することが少なくない。本記事では、パーソナリティー障害の基礎知識を整理したうえで、現場でよくある場面を想定した対応のポイント、避けるべき関わり方、家族支援や多職種連携の進め方までを解説する。
パーソナリティー障害とは
パーソナリティー障害とは、ものの考え方・感じ方・行動のパターンが、その人が属する文化から期待される範囲から著しく偏っており、そのために本人が生きづらさを抱えたり、対人関係や社会生活に持続的な支障が生じたりしている状態を指す。パターンは思春期や成人期早期から始まり、長期にわたって持続する点が特徴とされる。
主なタイプと現場で見られやすい特徴
- 境界性パーソナリティー障害:感情の起伏が激しく、見捨てられることへの強い不安から、対人関係が急に不安定になりやすい。
- 反社会性パーソナリティー障害:他者の権利や気持ちへの配慮が乏しく、ルール違反や衝動的な行動が繰り返されやすい。
- 自己愛性パーソナリティー障害:自己評価が過大になりやすく、他者からの評価や賞賛を強く求める傾向がある。
- 回避性パーソナリティー障害:批判や拒絶への恐れが強く、対人関係や新しい活動を避けようとする傾向がある。
現場では一つの型にきれいに当てはまるとは限らず、複数の特徴が混在していることも多い。支援員が独自に「この人は境界性だ」と診断的な判断を下すことは避け、あくまで日々の言動の記録を通じて、医師や精神保健福祉士等の専門職の見立てにつなげる姿勢が重要である。
原因として考えられていること
パーソナリティー障害の原因は単一ではなく、遺伝的な要因、幼少期の養育環境、対人関係での傷つき体験、脳機能の特性などが複合的に関わっていると考えられている。生育歴や環境要因への理解を深めることは、本人を責めずに支援の方向性を検討するうえでの土台になる。

福祉現場でよくみられる場面と対応の基本
感情の波に巻き込まれない距離感を保つ
感情が急激に高ぶっている利用者に対して、スタッフ自身も動揺したり、言い返したりしてしまうと、状況がさらに悪化しやすい。まずは落ち着いた声のトーンを保ち、利用者の感情そのものは否定せず受け止めながらも、要求のすべてに応じる必要はないという一貫した姿勢を持つことが大切である。
一貫した対応とチームでの情報共有
対応する職員によって言うことや境界線が変わると、利用者は「誰に強く言えば通るか」を試すような関わり方をしやすくなり、支援員間の関係もぎくしゃくしてしまう。個別支援計画や申し送りノートに対応方針を明文化し、勤務が変わっても同じ姿勢で関われるようにしておきたい。
声かけの基本的な考え方は支援員の声かけ・傾聴術|伝わるコミュニケーションの基本も参考になる。
📋 実践のポイント(グループホームでの日常的な関わり方)
利用者から「あなただけが分かってくれる」と特別扱いを求められた場面では、「そう感じてもらえるのは嬉しいですが、他のスタッフとも同じように情報を共有しながら、みんなであなたを支えていきたいです」と伝え、特定の職員に依存が偏らないよう他のスタッフとも均等に関わる時間をつくる。
不穏時(クライシス)の初期対応
安全確保が最優先
自傷・他害のおそれや、物を投げる・大声を出すなど興奮が強い場面では、まず利用者本人と周囲の利用者・スタッフの安全確保を最優先する。危険物を遠ざけ、刺激の少ない静かな環境に移動できるよう促し、複数名で対応できる体制を整える。
落ち着いてからの振り返り
興奮が収まった後は、その場で正論を突きつけたり原因を問い詰めたりせず、時間をおいてから何がきっかけだったのかを本人と一緒に振り返る。振り返りの内容は記録に残し、次回以降の予防策の検討や、危機介入計画(クライシスプラン)の見直しに活用する。
📋 実践のポイント(生活介護事業所での不穏時対応)
利用者が急に大声を出し始めた際は、まず「〇〇さん、少し場所を変えましょうか」と穏やかに声をかけ、他の利用者から離れた静かな個室スペースへ誘導する。落ち着くまでは説得や説明を控え、そばに付き添いながら「大丈夫ですよ、ここにいます」と安心感を伝えることに徹する。

してはいけない対応・避けたい関わり方
- 批判的な言葉や「またか」といった否定的な態度を向けること
- 一人のスタッフだけが抱え込み、他の職員に情報共有しないこと
- その場の状況によって約束事や境界線を変えてしまうこと
- 感情や訴えを「大げさだ」などと取り合わずに否定すること
- 「他の人には言わないで」と個人的な秘密の約束をすること
- 本人の自己決定を無視して、一方的に解決策を押し付けること
診断や服薬内容の変更、症状の悪化が疑われる場合には、支援員が自己判断で対応方針を決めるのではなく、必ず医師・看護師・精神保健福祉士等の専門職に相談することが原則である。医療的な判断が必要な場面を見極める意識を、チーム全体で持っておきたい。
家族支援と多職種連携
家族は本人の生活を長く支えてきた存在であると同時に、対応の難しさに疲弊していることも多い。家族の話をまず十分に聴き、これまでの苦労をねぎらったうえで、事業所としてできる支援の範囲を丁寧に説明することが信頼関係づくりの第一歩になる。家族対応やクレーム対応の具体的な進め方は家族支援の実践|信頼関係とクレーム対応のコツで詳しく解説している。
公的な支援としては、精神科医療機関での治療、精神保健福祉センターでの相談、カウンセリング等の心理療法、就労支援や生活訓練等の障害福祉サービスがある。厚生労働省や日本精神保健福祉士協会が公表している資料も参考にしながら、本人・家族に必要な社会資源を案内できるようにしておきたい。
参考図書を手元に置いておくと、支援方針を振り返る際の助けになる。業務の参考になるアイテムを探す際は、こちらもチェックしてみてください。
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支援員自身のセルフケアも大切に
感情の波が大きい利用者との関わりが続くと、支援員自身も精神的に消耗しやすい。一人で抱え込まず、スーパービジョンやケース会議の場で気持ちを共有し、感情労働との付き合い方を見直す機会を定期的に持つことが、支援の質を保つうえでも欠かせない。詳しくは支援員のバーンアウト予防|感情労働との付き合い方を参照してほしい。
まとめ
パーソナリティー障害のある利用者への支援では、感情の波に巻き込まれない一貫した距離感、不穏時の安全確保、そしてチームでの情報共有が対応の軸になる。診断や医療に関わる判断は専門職に委ね、支援員は日々の記録と観察を通じてチームを支える役割を担いたい。
今日からできる一歩として、まずは自分の事業所の個別支援計画やクライシスプランを見直し、対応方針がチーム内で共有できているかを確認してみてほしい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。


