先週までは新しい活動に次々と手を挙げ、饒舌に話しかけてきた利用者さんが、今週になると一転して部屋にこもりがちになり、声をかけても短い返事しか返ってこない。そんな急激な変化に戸惑った経験はありませんか。双極性障害のある利用者への対応では、この「気分の波」をどう理解し、どう寄り添うかが支援の質を大きく左右します。
この記事では、双極性障害の特性と背景を整理したうえで、現場ですぐに実践できる観察のポイントや声かけの工夫、リスク管理上の留意点を解説します。グループホーム・生活介護・就労支援それぞれの場面を想定した具体的な対応例もあわせて紹介します。

双極性障害とは|気分の波が生まれる背景
躁状態とうつ状態、それぞれの特徴
双極性障害は、気分が高揚する「躁状態(または軽躁状態)」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。躁状態では活動性の亢進、多弁、睡眠時間の減少、衝動的な浪費や約束の乱発などが見られます。一方うつ状態では、意欲低下、強い疲労感、自己否定的な思考、引きこもりがちな行動が目立つようになります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、双極性障害は躁状態の程度によりI型・II型に分類され、いずれも再発を繰り返しやすい疾患であることが示されています。気分の波は本人の意思でコントロールできるものではなく、脳の機能に関わる病態であるという理解が、適切な支援の出発点になります。
周囲から誤解されやすい理由
躁状態のときの過活動や強気な発言は「わがまま」「調子に乗っている」と誤解されやすく、うつ状態のときの無気力は「怠けている」と受け取られてしまうことがあります。統合失調症の利用者理解と同様に、症状を性格や気分の問題として捉えてしまうと、支援方針を誤り、本人との信頼関係を損なう原因にもなります。
特に軽躁状態は本人にとって「調子が良い」時期に見えるため、周囲も本人自身も病状のサインだと気づきにくいという特徴があります。日頃からの状態の記録と、支援チーム内での情報共有が早期のサイン把握につながります。
うつ病との違いと早期発見の難しさ
双極性障害は、初めて症状が現れた時点ではうつ状態から始まることが多く、うつ病と診断されて治療が始まるケースも少なくありません。うつ病の治療を続けても改善が乏しい、あるいは治療の途中で急に活動的になる時期があるといった経過が見られた場合、双極性障害の可能性を医療機関側が再検討することもあります。
福祉現場のスタッフが診断を行うことはできませんが、日常の様子の変化を具体的な言葉で記録し、通院に同行する家族や本人へ伝えることは、正確な診断・治療につながる重要な役割です。「いつから」「どのくらいの期間」「どんな行動の変化があったか」を意識して記録に残す習慣が、医療機関との連携を円滑にします。
現場での実践的な対応方法
今日から実践できること(観察と声かけ)
気分の波を早期にキャッチするには、睡眠時間・会話量・活動量といった日常の変化を毎日同じ視点で観察し、記録に残すことが基本になります。声かけの際は、躁状態のときは行動を否定せず落ち着いた口調で選択肢を示し、うつ状態のときは無理に励まさず、そばにいることを伝える姿勢が有効です。詳しい声かけの基本は支援員の声かけ・傾聴術もあわせて参考にしてください。
📋 実践のポイント(グループホームでの一日の観察)
- 朝の起床時に表情・声のトーン・身支度のペースを確認し、記録用紙に一言メモする
- 躁傾向が見られる日は「今日はどれから取り組みますか」と選択肢を示し、予定の詰め込みすぎを防ぐ
- うつ傾向が見られる日は「無理に話さなくて大丈夫ですよ、そばにいますね」と伝え、行動を急かさない
- 普段と違う金銭的な話題や外出頻度の急増があれば、さりげなく声をかけて確認する
チームで連携してできること
個人ごとの支援スタイルに差が出やすい部分でもあるため、新人職員には気分の波の見方や声かけの具体例をOJTの中で早めに伝えておくと、対応のばらつきを防げます。特に夜勤や休日など少人数体制の時間帯は、事前の申し送り内容が唯一の判断材料になることも多く、記録の質がそのまま対応の質に直結します。
個人の主観的な印象だけに頼らず、気分・睡眠・食事量などをチームで共有できる記録様式を用いることが重要です。日々の変化を数値や短い言葉で残しておくと、通院時に主治医へ伝える情報としても役立ち、サービス管理責任者が個別支援計画を見直す際の判断材料にもなります。
📋 実践のポイント(就労支援事業所での申し送り)
- 朝礼・終礼で「昨日と比べた変化」を一言で共有するルールを決めておく
- 作業ペースの急な変化(普段より速い・遅い)を職業指導員間で申し送りする
- 通院日・服薬状況をシフト表や記録アプリで全員が確認できるようにしておく
- 気になる変化があった日はサービス管理責任者に当日中に報告する
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日々の変化を記録に残す習慣づくりに

注意点・リスク管理上の留意点
双極性障害の支援で特に注意したいのが、うつ状態や躁とうつが混在する「混合状態」での自殺リスクです。厚生労働省の自殺総合対策大綱でも、気分障害は自殺のリスク要因の一つとして位置づけられています。普段と様子が違う、悲観的な発言が増えたといったサインに気づいた場合は、一人で抱え込まず速やかにサービス管理責任者や医療機関へ報告してください。
もう一つ注意したいのが、躁状態で「調子が良い」と感じた本人が自己判断で服薬を中断してしまうリスクです。日本うつ病学会の治療ガイドラインでも、双極性障害は気分安定薬による継続的な治療が再発予防の柱とされており、服薬中断は再発や症状悪化に直結しやすいとされています。誤薬や服薬中断のリスク管理については服薬管理の基本もあわせて確認しておくと安心です。
躁状態では衝動的な浪費や対人トラブル、過度な約束事など、後の生活に影響する行動が増えることもあります。行動そのものを頭ごなしに否定するのではなく、金銭管理の仕組みづくりや外出予定の事前確認など、環境面での予防策をチームで検討することが有効です。対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。

また、家族と同居していない利用者の場合でも、可能な範囲で家族と支援方針を共有し、緊急時の連絡体制を事前に確認しておくことが望まれます。躁状態・うつ状態いずれの場面でも、本人を孤立させず、事業所・医療機関・家族が同じ情報を持って連携できる体制を日頃から整えておくことが、リスクを早期に把握する土台になります。
まとめ
双極性障害の支援では、気分の波を性格の問題ではなく病気の症状として理解し、日々の小さな変化を見逃さない観察の積み重ねが何より重要です。今日からできる第一歩として、まずは記録様式を見直し、チームで気づきを共有できる仕組みを整えることから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。

