「利用者さん同士の言い争いが急に取っ組み合いに発展し、どちらを止めるべきか一瞬迷ってしまった」——グループホームや生活介護の現場で、こうした経験をした支援員は少なくないはずです。
利用者間トラブルは、身体的な怪我だけでなく、当事者双方の心理的な負担や、他の利用者への不安の波及にもつながります。一方で、支援員一人ひとりの対応力にばらつきがあると、その場しのぎの介入で終わり、根本的な再発防止につながらないケースも見られます。
本記事では、利用者間トラブルが起こりやすい背景を整理したうえで、発生直後の初期対応の手順、そしてチームで取り組む再発防止の工夫を、具体的な声かけ例とともに解説します。

なぜ利用者間トラブルは起こりやすいのか
環境要因とストレスの蓄積
グループホームや生活介護の現場は、複数の利用者が同じ空間・同じ時間を共有する場です。座席が近い、物音が気になる、順番待ちが長いといった些細な環境要因が積み重なり、ストレスの蓄積からトラブルに発展することがあります。
特に体調不良や生活リズムの乱れ、環境の変化(模様替え・行事・新しい利用者の受け入れなど)があった直後は、利用者の情緒が不安定になりやすい時期です。支援員がこうした変化を事前に把握しておくことで、トラブルの予兆に気づきやすくなります。
コミュニケーションのすれ違いと特性による誤解
自閉症スペクトラムや知的障害のある利用者の場合、相手の意図を字義通りに受け取ってしまう、冗談や皮肉が伝わりにくいといった特性から、悪気のない一言がトラブルの引き金になることがあります。支援員の声かけ・傾聴術で紹介されているような、わかりやすく穏やかな伝え方を日頃から意識しておくことが、トラブルの予防にもつながります。
また、過去の対人関係での傷つき体験や、感覚過敏による不快感が背景にあることも珍しくありません。「ただのわがまま」と決めつけず、行動の背景にある理由を探る視点を持つことが大切です。
トラブルの背景を丁寧に見ていくと、実は同じ利用者同士が繰り返し衝突しているケースも少なくありません。特定の組み合わせで摩擦が起きやすい場合は、偶然ではなく相性やお互いの特性の相互作用が影響している可能性を疑ってみましょう。
例えば、大きな音や急な予定変更が苦手な利用者と、動きが活発で声が大きい利用者が同じ空間で長時間過ごせば、どちらにも悪意がなくてもストレスが蓄積しやすくなります。個々の特性を把握したうえで、席順や活動グループの組み合わせを工夫することが予防の第一歩です。
現場での実践的な対応方法
今日から実践できる初期対応
トラブルが発生した瞬間は、まず双方の安全確保を最優先します。大声を出したり、力ずくで引き離したりすると、かえって興奮を助長する場合があるため、落ち着いた声のトーンで間に入ることを意識しましょう。
📋 実践のポイント(グループホームでの場面)
①支援員自身が二人の間に体を入れ、物理的な距離をつくる。②「〇〇さん、こちらへ来ましょう」と穏やかにどちらか一方の名前を呼び、別室や別の場所へ誘導する。③興奮が落ち着くまでは説教や理由の追及をせず、「大丈夫ですよ、少し休みましょう」と安心できる言葉をかける。④双方が落ち着いてから、それぞれの言い分を個別に聞き取る。
個別に話を聞く際は、どちらか一方を頭ごなしに叱るのではなく、「何が嫌だったのか」「どうしてほしかったのか」を丁寧に確認します。双方の言い分を支援員が整理して伝え合うことで、当事者同士が納得しやすくなります。
個別に話を聞く場面では、支援員が「裁判官」のように白黒をつける必要はありません。むしろ双方が「自分の話を最後まで聞いてもらえた」と感じられることが、気持ちを落ち着けるうえで重要です。相手を評価したり比較したりする言葉は避け、事実と気持ちを分けて確認するよう心がけましょう。
就労支援の現場でも、作業中の役割分担や納期のプレッシャーが引き金となり、利用者同士の口論に発展することがあります。作業工程を見直し、一人あたりの負荷を調整することで、トラブルの芽を事前に摘める場合もあります。
チームで連携してできる再発防止の工夫
個々の支援員の対応力だけに頼るのではなく、トラブルが起きた事実と対応内容をチーム全体で共有し、再発防止策を検討する仕組みが必要です。ヒヤリハット報告の書き方を参考に、軽微なトラブルであっても記録に残す習慣をつけましょう。
📋 実践のポイント(生活介護での場面)
①座席配置や作業動線を見直し、相性が合いにくい利用者同士の接触機会を減らす。②トラブルが起きやすい時間帯(昼食前・活動の切り替え時など)を職員間で共有し、その時間は見守りを手厚くする。③週1回のミーティングで「ヒヤリハット」を共有し、個別支援計画に対応方針を反映させる。
再発防止の取り組みを継続するには、対応した支援員一人の努力に頼らない仕組みづくりが欠かせません。トラブル対応後は「誰が・いつ・どのように介入したか」を簡潔にメモし、次の勤務者が同じ情報を引き継げるようにしておきましょう。
新人職員にとって、利用者間トラブルへの介入は特に不安を感じやすい場面です。ベテラン職員がロールプレイ形式で対応の実演を見せたり、実際の場面に同席させて手本を示したりすることで、経験の浅い職員でも落ち着いて対応できるようになります。
業務の合間に感情のコントロールについて学べる資料を手元に置いておきたいという方は、こちらもチェックしてみてください。
🛒 関連アイテムはこちら
アンガーマネジメント 本をAmazonで見る
仲裁時の自身の感情整理にも役立つ一冊

対応時の注意点・リスク管理上の留意点
利用者間トラブルへの介入では、力ずくで押さえつけたり、長時間別室に留め置いたりする対応が、意図せず身体拘束や行動制限に該当してしまう場合があります。虐待防止|身体拘束の適正化と支援員の通報義務で解説されている切迫性・非代替性・一時性の三要件を踏まえ、必要最小限の介入にとどめることを常に意識してください。
厚生労働省が示す障害者虐待防止の考え方でも、行動制限は本人や周囲の安全を守るためにやむを得ない場合に限り、必要最小限の範囲で行うことが原則とされています。利用者間トラブルの介入場面でも、この原則を意識し、感情的な対応にならないよう注意が必要です。
トラブルが特定の時間帯や特定の活動に集中している場合は、個別支援計画のモニタリング時にその傾向を記載し、次の計画見直しに反映させましょう。単発の出来事として処理せず、支援の質を高める材料として蓄積していく視点が大切です。
また、対応後は必ず記録を残し、事業所内で情報共有を行いましょう。口頭での申し送りだけでは対応の一貫性が保てず、次に同じ職員が対応できるとは限りません。個別支援計画やケース会議の記録に反映させ、支援方針として組織全体で共有することが重要です。
頻繁にトラブルを起こす利用者について、精神的な不調や服薬の影響が疑われる場合は、支援員だけで判断せず、対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。行動の背景に医療的な要因が隠れていることもあります。

まとめ
利用者間トラブルは、環境要因やコミュニケーションのすれ違いなど、複数の背景が重なって起こります。発生直後は安全確保を最優先にした落ち着いた介入を行い、その後は個別の言い分の聞き取りとチームでの振り返りにつなげることが再発防止の基本です。
今日のミーティングで、直近のヒヤリハットを一つ取り上げて、対応方法をチームで話し合ってみませんか。日々の小さな振り返りの積み重ねが、利用者にとっても支援員にとっても安心できる環境づくりにつながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。

