当サイトでは障害福祉事業所で働くスタッフさん向けの情報ブログになります

高次脳機能障害の理解|福祉現場での気づきと支援のポイント

以前は問題なくこなせていた作業の手順を、今日はすっかり忘れてしまっている。何度説明しても同じ質問を繰り返す利用者さんに、どう関わればいいか戸惑った経験はありませんか。

事故や脳血管疾患などによる脳の損傷の後遺症として、記憶力・注意力・感情のコントロールに変化が生じる高次脳機能障害は、外見からは分かりにくく、周囲から「やる気がない」「わがままだ」と誤解されやすい特性です。

本記事では、高次脳機能障害の基本的な症状と、福祉現場で見逃されやすいサインへの気づき方、今日から実践できる声かけ・環境調整の工夫を、制度的な視点も交えて解説します。

福祉事業所の面談スペース
気づきの共有が支援の第一歩

高次脳機能障害とは何か・現場で見落とされやすい理由

主な症状の特徴

高次脳機能障害は、交通事故や転倒、脳卒中などによる脳損傷の後遺症として生じる認知面の障害の総称です。身体的な麻痺と異なり外見上の変化が乏しいため、「見えにくい障害」とも呼ばれます。

  • 記憶障害:新しい情報を覚えにくく、少し前の会話ややり取りを忘れてしまう
  • 注意障害:集中が続かない、周囲の物音や人の動きに気を取られて作業が中断しやすい
  • 遂行機能障害:計画を立てて順序立てて行動することが難しく、段取りを組めない
  • 社会的行動障害:感情のコントロールが難しくなり、些細なことで怒りっぽくなったり意欲が低下したりする

これらの症状は複数が同時に現れることも多く、本人の性格や生活歴では説明できない変化として現れるのが特徴です。

例えば、グループホームで着替えや洗面の順番を毎回忘れてしまう利用者や、生活介護の作業中に他の利用者の声に気を取られて手が止まってしまう利用者は、単に「覚えが悪い」「集中力がない」のではなく、記憶障害や注意障害の症状として現れている可能性を考える必要があります。

「性格の問題」と誤解されやすい理由

高次脳機能障害のある利用者は、身体的な後遺症が軽度であるほど、周囲から「怠けている」「わがままになった」と受け止められがちです。本人自身も自分の変化を十分に自覚できていないケースが少なくありません。

支援員がこの特性を知らないまま対応すると、注意や叱責を繰り返すことになり、本人の自己肯定感を損ない、二次的な情緒の不安定さを招く恐れがあります。まずは「本人の努力不足ではなく、脳機能の変化による症状である」という前提を関わる職員全員で共有することが出発点です。

受傷や発症からの時間が経過している場合、周囲の職員が「以前の本人」との違いに気づきにくくなることもあります。入職したばかりの職員や異動してきた職員には、現在の状態だけでなく受傷前後でどのような変化があったのかを申し送りで伝えておくと、誤解を防ぎやすくなります。

高次脳機能障害は、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の対象となる場合があり、障害福祉サービスの利用にもつながります。手帳の有無にかかわらず、日々の関わりの中で症状に応じた支援を積み重ねていく姿勢が求められます。

症状の背景を正しく理解する上では、多職種連携の基本|医療機関や相談支援専門員との連携術で紹介されている情報共有の考え方も参考になります。

現場での実践的な対応方法

今日から実践できる伝え方の工夫

記憶障害や注意障害のある利用者には、一度に多くの情報を伝えるのではなく、指示を一つずつ区切って伝えることが基本です。伝えた内容はメモやホワイトボードなど目に見える形で残すと、後から本人が自分で確認できます。

📋 実践のポイント:生活介護での声かけ例

作業手順を毎回忘れてしまう利用者には「まず〇〇をしましょう」と一つの動作のみを伝え、終わったら次の指示を出します。手順を写真付きのカードにして机上に置いておくと、本人が自分のペースで確認でき、繰り返し尋ねる負担を減らせます。声をかける際は「さっきも言いましたよね」ではなく「もう一度確認しますね」と落ち着いた口調を保つことが大切です。

指示を出す際は、抽象的な言葉ではなく「洗面台の右にある青いタオルを取ってください」のように具体的な対象を示すと、遂行機能障害のある利用者でも動作に移しやすくなります。急かす言葉遣いは焦りを招き、かえって手順を忘れる原因になるため避けましょう。

チームで連携してできる環境調整

対応が職員個人の経験や感覚に頼ってしまうと、日によって声かけの内容がぶれてしまい、利用者の混乱を招きます。気づいたサインや有効だった対応は、その日のうちに支援記録へ残し、次の勤務者に確実に引き継ぐ体制が欠かせません。

記録の残し方に迷う場合は、支援記録の書き方|伝わる文章のコツと注意点で紹介されている、事実と解釈を分けて書く工夫が参考になります。

📋 実践のポイント:就労支援での環境調整

注意障害があり周囲の物音で集中が途切れやすい利用者には、作業スペースをパーテーションで区切る、他利用者の動線から離れた席を用意するなどの環境調整が有効です。1日のスケジュールをチェックリスト形式で共有し、完了した項目にチェックを入れてもらうことで、本人の達成感にもつながります。

業務の参考になるアイテムを探す際は、こちらもチェックしてみてください。

🛒 関連アイテムはこちら

メモ帳・ふせん(記憶サポート用品)をAmazonで見る
手順確認やスケジュール共有の補助道具として

手順確認に使うメモ帳
見える形で残す情報共有

注意点・リスク管理上の留意点

社会的行動障害により感情のコントロールが難しくなると、些細なきっかけで大声を出したり、興奮した態度を見せたりすることがあります。危険を感じた場合はまず職員自身と周囲の利用者の安全を確保し、刺激を減らす環境に移動することを優先してください。

興奮への対応は、強度行動障害の理解|背景要因と現場での初期対応で解説されている「本人の背景にある要因を探る」視点とも共通しています。頻度や状況を記録し、パターンを見つけることが再発防止につながります。

高次脳機能障害は医学的な診断・リハビリテーションと密接に関わるため、症状の変化や服薬に関する判断は支援員だけで抱え込まず、対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。

興奮や大声の背景には、疲労や体調不良、予定変更への戸惑いなど、環境要因が隠れていることも少なくありません。感情面の症状だけに注目せず、その日の体調や直前の出来事も合わせて記録しておくと、再発のきっかけを見つけやすくなります。

また、感情の起伏が強い利用者への対応は、身体拘束の適正化や虐待防止の観点からも慎重さが求められます。厚生労働省が示す障害者虐待防止のガイドラインに沿い、本人の尊厳を守る対応を組織として徹底することが重要です。

医療機関との連携をイメージした廊下
専門職との連携が支援の要

まとめ

高次脳機能障害は外見から分かりにくいからこそ、支援員一人ひとりの気づきと、チーム全体での情報共有が支援の質を左右します。「性格の問題」と決めつけず、症状の背景を理解した関わりを積み重ねていきましょう。

まずは今日の申し送りから、気づいたサインや有効だった声かけを一つでも記録に残すことから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。