「本人はどうしたいのだろうか」と考える前に、家族や職員の判断で外出先や日課を決めてしまった経験はありませんか。忙しい現場では、本人に確認する時間を惜しんで「代わりに決める」ことが当たり前になりやすいものです。
しかし、障害福祉サービスの土台には、本人の自己決定を尊重する「意思決定支援」という考え方があります。本記事では、意思決定支援の基本的な考え方と、現場で今日から実践できる具体的な工夫を、ガイドラインの視点も交えて解説します。

意思決定支援とは何か・現場で重要とされる背景
意思決定支援の定義とガイドラインの位置づけ
厚生労働省は、障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドラインを策定し、本人の意思決定を支える手順や配慮事項を示しています。意思決定支援とは、本人が自ら意思を形成し、それを表明し、実現する過程を職員が支える一連の取り組みを指します。
単に「何がしたいか」を聞くだけでなく、選択肢を分かりやすく提示し、判断材料を整理して伝えることも意思決定支援に含まれます。障害の特性によって意思の形成や表明に時間がかかる方もいるため、急かさず待つ姿勢が前提になります。
ガイドラインでは、本人への支援は「自己決定の尊重」に基づいて行うことを原則としつつ、職員から見て一見不合理に思える選択であっても、他者の権利を侵害しない限りは尊重するよう努めることが求められています。この視点は、次に述べる「代行決定」を防ぐうえでも重要な出発点になります。
職員が陥りやすい「代行決定」の問題
現場では、業務の効率を優先するあまり、職員や家族が本人に代わって選択してしまう「代行決定」が起こりがちです。悪意はなくても、「この人にはこの選択は難しいだろう」という職員側の先入観が、本人の意思確認の機会を奪ってしまうことがあります。
特に重度の知的障害や重複障害のある方に対しては、意思表示が難しいという理由だけで確認を省略してしまうケースが少なくありません。日頃から支援員の声かけ・傾聴術を意識しておくことは、意思決定支援を実践するための土台にもなります。意思決定支援は、こうした無意識の代行決定に気づき、修正していくためのプロセスでもあります。
意思決定支援を構成する3つのプロセス
ガイドラインでは、意思決定支援を「意思形成支援」「意思表明支援」「意思実現支援」の3つの段階に整理しています。意思形成支援は、本人が状況を理解し選択肢を検討できるよう、情報をわかりやすく整理して伝える段階です。
意思表明支援は、本人が形成した意思を表現できるよう、表情や身振り、視線なども含めて丁寧に受け止める段階です。意思実現支援は、表明された意思をできる限り生活の中で実現できるよう、環境や手段を整える段階を指します。
この3段階を意識すると、「聞いたつもり」で終わらせず、本人の意思が実際の生活にどう反映されたかまで確認する習慣がつきやすくなります。
現場での意思決定支援の実践的な対応方法
今日から実践できること
選択肢を絞り、視覚的な情報とあわせて示すことで、本人が答えやすくなります。グループホームの場面を例に、具体的な声かけの手順を見てみましょう。
📋 実践のポイント(グループホームでの夕食メニュー選択)
「今日の夕食は、カレーと焼き魚どちらがいいですか」と選択肢を2つに絞り、写真やイラストを見せながら尋ねる。即答が難しい場合は「あとで教えてくださいね」と時間を置き、少し経ってから改めて尋ねる。本人が答えたら「カレーを選んだんですね」と復唱し、意思を確認したことを本人にも伝える。確認したやり取りは支援記録に残し、次の機会にも同じ配慮を継続できるようにする。
意思表示が難しい方への配慮
言葉による意思表示が難しい方に対しては、表情の変化や視線の動き、特定の物への手の伸ばし方など、非言語的なサインを丁寧に観察することが手がかりになります。日頃から本人の「好き」「嫌い」のサインを職員間で言語化し、記録として共有しておくと役立ちます。
絵カードや写真カード、実物を見せる、選択肢を1つずつ順番に提示するなど、本人の特性に合わせた補助的なコミュニケーション手段を活用することも意思決定支援の一環です。手段を変えるだけで、これまで「意思表示が難しい」とされていた方の反応が引き出せることもあります。
チームで連携してできること
本人の意思確認が難しいケースでは、一人の職員の解釈だけに頼らず、複数の視点で本人の意思を推定する「合議」のプロセスが重要です。個別支援計画の書き方を検討するケース会議の場でも、この視点を取り入れることができます。
📋 実践のポイント(就労継続支援事業所での進路選択会議)
サービス管理責任者・支援員・相談支援専門員が参加するケース会議で、本人の表情や普段の行動履歴から読み取れる意思を共有する。「本人はこう言っていた」という発言だけでなく、「こういう場面で笑顔が見られた」など行動面の情報も合わせて記録する。意見が分かれた場合は多数決で決めず、本人にとって最も不利益が少ない選択肢を丁寧に検討する。会議での検討過程を記録に残し、後から見直せるようにしておく。
意思決定支援の考え方をチームで共有する際は、参考図書を手元に置いておくと振り返りやすくなります。業務の参考になるアイテムを探す際は、こちらもチェックしてみてください。
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意思決定支援と権利擁護・虐待防止の関係
代行決定と不適切な支援の境界
本人の意思を確認しないまま日課や持ち物、金銭の使い道などを職員が一方的に決めてしまう状態が常態化すると、意図せず不適切な支援や権利侵害につながるおそれがあります。特に行動を制限する対応が「安全のため」という理由で安易に選ばれていないか、日頃から振り返ることが大切です。
本人の意思を無視した対応が積み重なることは、心理的虐待やネグレクトのリスクと隣り合わせであることを職員間で共有しておく必要があります。虐待防止|身体拘束の適正化と支援員の通報義務もあわせて確認し、意思決定支援と権利擁護を切り離さずに捉える視点を持ちましょう。
成年後見制度との関係
判断能力に不安のある方の中には、成年後見制度を利用し、後見人等が財産管理や契約行為を代理している方もいます。ただし、後見人等がついている場合でも、日常生活における意思決定支援の必要性がなくなるわけではありません。
財産管理などの法律行為は後見人等の権限に基づく一方で、食事や余暇の過ごし方といった日常的な選択については、引き続き本人の意思を丁寧に確認する姿勢が求められます。成年後見制度とは|福祉スタッフが知っておく基礎知識も参考に、制度の範囲と現場での意思決定支援の役割を整理しておくとよいでしょう。
意思決定支援を行う上での注意点・リスク管理
判断能力の評価や医療的な選択に関わる意思決定支援を行う場合、症状の解釈や治療方針の判断を職員だけで行うことは避け、対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。
家族の意向と本人の意思が食い違う場面も少なくありません。家族の思いにも配慮しながら、あくまで本人の意思を中心に据えて調整する姿勢が求められます。家族支援の実践|信頼関係とクレーム対応のコツも参考に、家族との対話を丁寧に重ねていきましょう。
意思決定支援のプロセスは、支援記録に「誰が・どのような根拠で本人の意思を推定したか」を残すことが重要です。記録を残すことで、後任の職員が支援を引き継ぐ際にも一貫した対応ができ、本人の意思が置き去りにされるリスクを減らせます。

まとめ
意思決定支援は、特別な準備がなくても今日から始められる取り組みです。明日の勤務でまず一つ、本人に何かを尋ねる場面があれば、選択肢を2つに絞って提示し、答えを待つ時間を意識してみましょう。
小さな積み重ねが、本人らしい生活を支える力になります。今日のミーティングや申し送りの場で、担当している利用者の意思決定支援について、チームで一度話題にしてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。


