早朝の送迎前、担当の職員が「今日は検知器を使わなくても大丈夫だろう」と目視確認だけで済ませて送迎に出発してしまった――そんな場面に心当たりはないでしょうか。障害福祉サービス事業所が保有する送迎用自動車は、道路交通法施行規則の改正により、運転前後のアルコールチェックが義務化されています。しかし現場では「自事業所が対象になるかどうか分からない」「記録の付け方が曖昧なままになっている」という声も少なくありません。
この記事では、アルコールチェック義務化の制度的な背景、対象となる事業所の条件、そして点呼・記録を無理なく運用するための具体的な手順を解説します。日々の送迎業務に無理なく組み込める運用のヒントとしてご活用ください。
送迎車両のアルコールチェック義務化と背景
制度改正の背景とスケジュール
2021年に発生した児童の送迎バスによる交通事故等を受けて、警察庁は道路交通法施行規則を改正し、安全運転管理者による運転者への酒気帯び確認を段階的に義務化しました。2022年4月からは目視等による確認が義務化され、2023年12月からはアルコール検知器を用いた確認とその記録の保存が義務化されています。
対象となるのは、乗車定員11人以上の自動車を1台以上保有する事業者、または他の自動車を5台以上保有する事業者で、安全運転管理者の選任が必要な事業者です。グループホームや生活介護事業所、児童発達支援事業所などが日常的に運行する送迎用自動車もこの対象に含まれる場合があります。
対象となる事業所・車両の確認方法
事業所の管理者やサービス管理責任者は、まず自事業所が保有する送迎車両の台数・乗車定員を確認し、安全運転管理者の選任義務があるかどうかを整理する必要があります。複数の拠点で車両を共有している場合は、拠点ごとに台数を数えるのか法人全体で数えるのかを確認しておきましょう。判断に迷う場合は、最寄りの警察署(運転免許担当窓口)に相談することをお勧めします。
記録として残すべき項目は、確認者名、運転者名、確認日時、確認の方法(アルコール検知器使用の有無)、検知器の測定結果、そして使用した自動車の登録番号です。これらを月ごとに一覧化しておくと、実地指導や第三者評価の際にもすぐに提示できます。
なお、送迎に利用する自動車が自治体の福祉有償運送登録を受けている場合は、旅客自動車運送事業の基準に基づく別の点呼・確認義務が課されることがあるため、自家用車(白ナンバー)向けの基準と混同しないよう注意してください。
すでに点呼を実施している事業所でも、担当者が長期休暇で不在の間に確認が抜けてしまうことがあります。代理の確認者をあらかじめ複数名指名し、誰が不在でも運用が止まらない体制を整えておきましょう。
判断を誤ると、義務があるにもかかわらず点呼・記録を行わないまま運行してしまうリスクがあります。送迎車両そのものの安全管理については、送迎車両の安全管理|乗降時の事故防止とチェックポイントもあわせて確認し、年に一度は車両台数と対象の有無を見直すことが望ましいでしょう。
現場での実践的な対応方法
今日から実践できること
アルコールチェックは「形だけ行う作業」になってしまうと、本来の事故防止の意味を失ってしまいます。まずは測定から記録までの一連の流れを、誰が行っても同じ手順になるよう整理しておきましょう。
📋 実践のポイント
送迎担当職員は出発前にアルコール検知器で測定し、測定値・運転者名・時刻を点呼記録簿にその場で記入します。「異常なし、出発します」と声に出して確認し合う運用にすると、確認作業が形だけで終わるのを防げます。検知器が故障・電池切れの場合は運行を見送り、代替の運転者や車両を確保する判断をその場で行います。
チームで連携してできること
個人任せの確認では、忙しい時間帯にチェックが抜け落ちてしまいがちです。チーム全体で記録を見守る体制を作ることが、継続的な運用のポイントになります。
📋 実践のポイント
点呼記録簿は1年間保存する決まりのため、月末に管理者が記録の抜け漏れをまとめて確認する日をあらかじめ決めておきます。新人職員には入職時研修で検知器の使い方と記録の書き方を実地で教え、口頭での引き継ぎだけで終わらせません。前夜の飲酒量や体調についても一言声をかけ合う文化を作ると、検知器の数値だけに頼らない安全確認ができます。
紙の記録簿だけでなく、スマートフォンの記録アプリやスプレッドシートを併用すると、複数拠点の記録を本部で一括確認しやすくなります。ただし通信環境が不安定な早朝・山間部の送迎では、紙の記録簿を必ず控えとして用意しておくと安心です。
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注意点・リスク管理上の留意点
記録を怠った場合、重大事故が発生した際に事業所全体の運行管理体制そのものが問われる可能性があります。各都道府県の福祉サービス第三者評価や指定基準の実地指導でも、送迎車両の安全管理は運営体制を確認する重要な項目として位置づけられています。
検知器の数値が基準値を超えた場合は、本人の体調不良や口腔内の消毒液の影響等も考えられるため、一方的に決めつけず、サービス管理責任者や管理者に相談のうえでチームとして運転を控える判断を行うことが重要です。測定結果は職員個人の体調に関わる情報でもあるため、記録の保管・閲覧範囲については個人情報保護の観点から事業所内でルールを明確にしておきましょう。
前夜に飲酒をした職員が翌朝の送迎を担当する可能性もあるため、体内のアルコール分解にかかる時間の目安について、入職時や年次研修で全職員に周知しておくことも有効です。「数値が出ない=安全」と短絡的に判断せず、体調や言動の変化にも気を配る複合的な確認を習慣づけましょう。
休日や早朝の送迎では、点呼を行う管理者が不在になりやすい点にも注意が必要です。運転者本人が検知器で測定し、結果を写真で記録に残す、あるいは電話で管理者に報告するなど、管理者が不在でも確認が途切れない仕組みをあらかじめ決めておきましょう。
万が一、確認を怠った状態で事故が発生してしまった場合の対応手順は、事故発生時の初期対応|福祉現場での報告と再発防止を参考に、日頃から報告ルートを確認しておくことが欠かせません。検知器の異常値や「危うく運転してしまった」というようなヒヤリとした出来事があれば、ヒヤリハット報告の書き方|事故予防に活かす現場の工夫の考え方に沿って早めに共有し、再発防止につなげましょう。
まとめ|小さな確認の積み重ねが事故を防ぐ
送迎車両のアルコールチェックは、罰則を避けるための事務作業ではなく、利用者と職員自身の安全を守るための仕組みです。まずは自事業所が義務の対象になるかを確認し、点呼記録簿とチェック体制を今日から整えてみましょう。
小さな確認の積み重ねが、重大事故を防ぐ最も確実な方法です。この記事を参考に、明日の送迎から運用を見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。

