利用者さんがさっきまで普通に話していたのに、急にぼんやりとした表情になり、数分前の会話をまったく覚えていない――そんな場面に戸惑った経験はありませんか。本人を問い詰めても要領を得ず、怠けているのか、それとも何か別の理由があるのか判断に迷う支援員も少なくありません。
こうした「意識や記憶の途切れ」は、解離性障害の特性によるものである可能性があります。本記事では、解離性障害のある利用者への理解を深め、福祉現場で今日から実践できる具体的な対応のポイントを解説します。
解離状態を特性として理解せずに「様子がおかしい」と戸惑ったまま対応すると、本人との信頼関係を損ねたり、必要な記録や連携が遅れたりすることにつながりかねません。早い段階で特性を理解しておくことが、落ち着いた対応の土台になります。
解離性障害とは|背景にある特性を理解する
解離性障害の主な症状と背景
解離性障害は、強いストレスやトラウマ体験から心を守るための防衛反応として、記憶・意識・自己同一性の一部が一時的に通常のつながりを失う状態を指します。代表的なものに、特定の期間の記憶が抜け落ちる解離性健忘、見慣れた場所にいるのに現実感が薄れる離人感・現実感消失症、さらに複数の人格状態が交代して現れる解離性同一性症などがあります。
いずれも本人の意思でコントロールできるものではなく、過去の虐待体験や強い心理的負荷が背景にあるケースが多いとされています。精神疾患の診断分類でも独立した疾患として位置づけられており、気合いや根性で改善するものではないという前提を、支援チーム全体で共有することが重要です。
解離性障害は決して稀な疾患ではなく、一般人口の数パーセントに何らかの解離症状がみられるとの報告もあります。それにもかかわらず「演技をしている」「注意を引きたいだけ」と誤解され、周囲から責められることで本人がさらに孤立してしまうケースも少なくありません。支援員がまず疾患特性として正しく理解することが、適切な関わりの出発点になります。
福祉現場で見られる具体的なサイン
現場では次のような様子が見られることがあります。急に表情が乏しくなり呼びかけへの反応が鈍くなる、数分から数時間の行動を本人がまったく覚えていない、普段と話し方や態度が明らかに変わる時間帯がある、同じ質問を繰り返す、などです。こうした変化は一見「気分のムラ」や「話を聞いていない」ように映りやすく、見過ごされがちです。
大切なのは、単発の出来事として片付けず、いつ・どんな状況で・どのくらいの時間続いたかを記録し、パターンを把握することです。支援記録の書き方を参考に、客観的な事実を時系列で残す習慣をチームで徹底しましょう。
ほかにも、急に筆跡や声のトーンが変わる、普段好まない食べ物や口調を選ぶようになる、呼び方や一人称が変わる時間帯がある、といった変化が見られることもあります。一つひとつは些細に見えても、複数のサインが重なっている場合は注意深く見守る必要があります。
現場での実践的な対応方法
今日から実践できる声かけと初期対応
解離状態にあると思われる利用者には、まず驚かせたり強く揺さぶったりしないことが基本です。声かけと簡単な見当識の確認によって、本人が安心して現実に戻れる環境を整えましょう。
職員自身が動揺した様子を見せると、本人がさらに不安を強めてしまうことがあります。まずは支援員が深呼吸をして声のトーンを落ち着け、ゆっくりとした口調で接することを意識しましょう。
📋 実践のポイント
穏やかな声で「〇〇さん、今ここにいますよ」「ここは〇〇(施設名)の食堂です、今は午後3時です」など、名前・場所・時間を短く伝え、本人のペースで現実への見当識を取り戻す手助けをします。無理に記憶を問い詰めず、落ち着いてから必要なことだけを確認し、周囲の刃物や火気、段差などの危険物からはさりげなく距離を取らせます。
チームで連携してできること
解離状態は、特定のきっかけ(大きな音、特定の話題、特定の人物との接触等)の後に起こりやすい傾向があります。個々の支援員の気づきを個人の中で終わらせず、申し送りノートや個別支援計画にきっかけと経過を記載し、職員間で共有することが再発予防の第一歩になります。
📋 実践のポイント
就労支援の場では、作業中に解離状態が疑われたら無理に作業を続けさせず、いったん静かな場所へ案内して見守る係を決めておきます。グループホームでは夜間の世話人にも同じ情報を共有し、「〇時頃、大きな物音の後にぼんやりする様子があった」など具体的な記録を引き継ぐ仕組みを作りましょう。トラウマインフォームドケアの視点を取り入れ、本人を責めず安心できる環境づくりをチームで一貫して行うことが大切です。
トラウマを背景にした反応への理解を深めたい場合はトラウマインフォームドケアの考え方も参考になります。また、気分や言動の変化がパーソナリティー障害など他の特性と部分的に重なって見えることもあるため、パーソナリティー障害への理解もあわせて確認しておくと、利用者ごとの違いを把握しやすくなります。
対応にあたる職員自身がトラウマやストレス反応への理解を深めるための参考書籍を探す際は、こちらもチェックしてみてください。
🛒 関連アイテムはこちら
トラウマケア 支援 本をAmazonで見る
職員のスキルアップや研修資料探しの参考に
注意点・リスク管理上の留意点
解離状態の最中は注意力や身体感覚が低下しているため、歩行中や入浴中、調理中などに発生すると転倒・やけど・怪我のリスクが高まります。安全な場所へ誘導し、刃物や火気の近くでは特に注意して見守ることが必要です。外出中であれば、無理に移動させず落ち着ける場所で回復を待つ判断も求められます。
診断や治療方針の判断は医療の専門領域です。対応に迷う場合は必ず医師・看護師・サービス管理責任者に相談してください。自己判断で服薬量を調整したり、通院を控えるよう助言したりすることは避け、厚生労働省や関連学会が示す精神疾患対応のガイドラインに沿ったチーム対応を心がけましょう。
また、事業所内だけで抱え込まず、相談支援専門員や通院先の医療機関と情報を共有し、支援の方向性をすり合わせておくことも重要です。緊急時の連絡先や受診の目安をあらかじめ個別支援計画に明記しておくと、夜間や休日でも職員が迷わず動けます。
まとめ
解離性障害は、本人の努力不足やわがままではなく、心を守るための反応です。症状のサインに早く気づき、記録を残し、チームで情報共有をしながら、安心できる関わりを積み重ねることが、利用者本人の安定した生活につながります。今日から、些細な変化もメモに残す習慣から始めてみてください。
まずは今日の記録に、いつもと違う小さな変化を一行書き加えることから始めてみましょう。その積み重ねが、利用者本人を守る大きな手がかりになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の支援方針・医療的判断・法的判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、所属事業所のルールやサービス管理責任者・医師・看護師等の専門職の判断に従ってください。

